大分市街地が一望できる山の上を開拓し、社会福祉施設としての機能をもたせた
農場を運営するとともに、ボーダーレスな癒やしの基地をめざす
『石窯キッチン&カフェぶらぼぅ&ファーム』。
プロローグ 山の上に佇むカフェ&ファーム
大分自動車道「大分インター」から車で約5分。大分市の中心部から比較的近い所にありながら、まるで人里離れた山奥にいるかのような森林に囲まれたカフェ『石窯キッチン&カフェぶらぼう・ぶらぼうファーム』。
店内にはテーブルセットのほか、小さなお子さまと一緒でも安心して食事が楽しめるようにとの思いから、隣接するスペースに座敷席が設けられいるほか、二階にはフリーレンタルスペースもあり、食事や各種小パーティ、さまざまなワークショップが開催できる多機能施設になっています。
現在は、終日車がずらりと並ぶ人気店ですが、元は建設現場用の資材置き場として利用されたあとに放置された状態で殺伐とした雰囲気だったため、地元では敬遠される場所だったのだそうです。しかし、大分市街地が一望できる見晴らしの良い場所だったこともあり、その敷地を喜ばれる場所に変えたいとの思いから、農地開拓を始め、その野菜を主役にしたカフェのオープンに至ったのだそうです。
【レポート:中本望美(左)武井千穂(右)】
店舗オープンは10年前の2008年。当初は野菜が主役のマクロビ料理を提供されていたそうですが、10年間の出会いや縁を紡いでいった結果、現在はシチリア島からの流れを汲むイタリアンが中心となっています。カフェの柱となるのは、中央に設置された大きな石窯。この石窯で焼き上げる熱々のピッツァをメインとして、ラザニアやフォカッチャ、スイーツがメニューにならびます。ピッツァの命となる生地には、大分産の無農薬小麦と本場イタリアの小麦をブレンドし、白神こだま酵母でゆっくり発酵させたオリジナルを開発。さらに、使用する野菜は、併設する『ぶらぼうファーム』で採れた無農薬・無化学肥料で育った野菜や、地元農家の方々が丁寧に育てた旬野菜を選ぶなど、体に安全で優しい素材がぎっしり詰まっています。
ピッツァの仕上げには、シチリア島で手摘みされてじっくり搾取したエキストラヴァージンオリーブオイル『バールパラディーソ』をたっぷり回しかけます。料理から立ち昇る蒸気とともに、オイルの青々しいフレッシュな香りが体の細胞を目覚めさせてくれるような感覚になります。その他にも、シチリア島から取り寄せたワイン、オリーブやフルーツなどの加工食材もテーブルを彩り、このカフェならではの料理を味わうことが出来ます。
店舗紹介 無機質な資材事務所を温もりある空間へ
武井:「本当にこの道で合っているの……?」と、一瞬ためらってしまうような、山へと向かうのどかな道を抜けた先に、ぶらぼうファームは顔を出しました。 訪れたのは、初冬にしてはあたたかな陽射しの午後。 高台から広がる景色に目を奪われ、店を見守るかのように立つエノキからは、黄金色の葉がヒラヒラと舞い、髪にとまる……。お店に入る前から、なんとも心地の良い場所でした。 さあ、石窯からの香り漂う店内へ!
『石窯キッチン&カフェぶらぼう』『ぶらぼぅファーム』が創立したのは、2008年の冬至の日。一年のうちで夜が一番長くなる日ですが、視点を変えれば「これから春に向かうための転機となる大切な一日」という意味ととらえ、創立を冬至にしたいと決めていたのだそうです。これからどのような成長をし、花が咲くのか?と、さまざまな希望をこめてオープンし、ちょうど10年目の節目を迎えられました。
▲敷地からは大分市街地を一望できます。中央にみえるのは大分自動車道。
この自然が育んだ豊かな大地を活かすこと、静かな場所で心と体を癒せる空間づくりを目指し、放置された荒れ地に農場とカフェをオープンすることに。農地開拓には、NPO法人をたちあげ、社会福祉事業として軽度障害者を率先して雇用し、地域にも貢献しながら、農場運営・カフェ経営を進められたのだそうです。そして見晴らしの良さや自然に溶け込んだカフェの風景は、映画監督をはじめ映像スタッフの方の目にとまり、映画のロケ地としてリクエストされ、スクリーンに登場したこともあったのだそう。
店舗となる建物は、資材置き場だった頃に使用されていた事務所棟をリノベーションしたもので、無機質な面影を残しつつ、手づくりのインテリアや温かみのある色合いのテーブルセット、ポップなカラーの石窯などで彩られ、柔らかな雰囲気に包まれています。
▲ぶらぼうカフェの初代石窯。店舗入口に設置され、まだまだ活躍できる現役石窯なのだそう。
▲お子さま連れのお客様がゆったり食事ができるように、テーブルセットの足を切り落とし、床を張り替えてお座敷スペースに改装した離れ。インテリアも極力少なくし、子どもたちがのびのびと過ごせるような配慮がうれしい。
料理のお話し シェフ 堀米洋さん
口から体の中に入るものが細胞をつくる。食材に手を掛けて美味しく調理したものを食べて笑顔になり、さらに体が元気になってもらえることが一番の喜び。
堀米シェフ:「料理に使用する野菜や小麦、調味料などはすべて体に優しい無農薬・無化学肥料・オーガニックを意識し、地採れの旬のものを取り入れています。普段食卓にならぶような野菜を厳選した調味料で美味しく調理し、石窯で本場さながらのイタリアンに変身させることが私の役目です。そして、その料理を食べることで笑顔が生まれ、お客様が健康になってくれること!それが私の一番の喜びです」
カフェのメインは、本場イタリアのシチリア島仕込みの石窯ピッツァ。その他のラザニアやスイーツも石窯で焼き上げています。
ピッツァのトッピングは、旬の野菜を使用することが多いのですが、チーズやオリーブオイルは本場を意識して取り寄せています。
高熱の石窯で一瞬にして焼き上げることで、外側はパリッとしながら、中はもっちりとした食感の生地になります。トッピングは、この短い焼き時間でちょうど良く調理されるように、素材の大きさや個性に合わせて、予め火を通したりするなど、手間と時間をかけているのだそう。
メニュー紹介 カフェの看板ピッツァ
カフェの柱となるピッツァは、本場イタリアで愛されるスタイルから、ファーム自慢の野菜をメインにしたオリジナルのピッツアなど、さまざまな種類があります。その中から、旬の野菜を使用したピッツアをご紹介します。
ベーコンと冬野菜のピッツァ トマトソース 1,500円(別)(ランチセット)
※ランチは自家製ベジDishと飲み物セット
※レポート紹介はピッツァのみになります
ピッツァやベジDish(野菜デリフードのワンプレートディッシュ)には、それぞれの個性に合わせてシチリア産のオレンジ塩やガーリック塩、オリーブオイルが使用されており、野菜・小麦本来の旨味が感じられます。
目の前に運ばれた瞬間に生地の香ばしさが立ち昇り、食欲をそそります。オリジナルのトマトソースと冬野菜の甘みの中で、シチリア産の塩がグッと味を引き締めているのが分かります。
白菜とモッツァレラのビアンカ風 1,700円(別)(ランチセット)
※ランチは自家製ベジDishと飲み物セット
※レポート紹介はピッツァのみになります
トマトソースを使わず、トッピングとチーズとオリーブオイルで仕上げたシンプルなピッツァ。チーズの濃厚なクリーミーさと弾力のある生地の噛みごたえとのマッチングをダイレクトに味わうことが出来ます。なにより珍しいのは白菜が使われている事ですが、白菜のシャキシャキとした食感が地野菜の新鮮さをより引き立てているように感じます。
ベーコンと冬野菜のピッツァ 酒粕ベシャメルソース 1,500円(別)(ランチセット)
※ランチは自家製ベジDishと飲み物セット
※紹介はピッツァのみ
大分の酒粕を用いてつくられたオリジナルのベシャメルソースは、優しい甘さと柔らかい風味に仕上がっており、野菜との相性が抜群。口当たりも軽やかなので、食べた後のモッタリ感がありません。
イタリアンスイーツ350円(別)〜
画像は、焼き菓子に洋酒をしみこませたイタリアのババ・ナポレターノ。添えられた生クリームの甘さがおさえられてえおり、ひとくちを丁寧に食べたくなる大人っぽいスイーツです。
武井:どれをとっても、まず感じるのは、ふんだんに使われている野菜のおいしさ!一般的にはピザの上でお見かけしないような野菜も。私のイチオシは白菜♪短時間の石窯調理に合わせ、先に具材を炒めるものもあるそうで、そのひと手間が完成した時の最高のバランスを生み出しているんですね。 王道のトマトソースはしっかりと全体をまとめ、爽やかな酸味と旨味がチーズとベストマッチ。 ベシャメルソースはモチっとした食感の酒粕が合わせてあり、鼻にふわっと感じる香りはやみつきに! 素材の良さが引き立つソース無しのピザは、自信と愛情のこもった一品、香り高いオリーブオイルとと共に、いくらでも食べられてしまいそう。 合わせていただいたのは、イタリア・シチリアの白ワイン。かろやかで親しみやすい飲み口、野菜の穏やかな個性と調和して、カジュアルな食事にもぴったり!スイスイと飲めてしまうのでちょっとキケンかしら(笑)
【フォカッチャ】
プクーっと膨れた熱々の生地を割り、こんなに?というくらいたっぷりとオリーブオイルを垂らし・・・ほわほわの食感と塩加減が絶妙!これだけで、ワインが進んじゃいます(笑)
【デザート】
洋酒の染み込んだ、うふふなスイーツ♡ 鼻に抜ける香りと豊潤な甘みが、口の中で生クリームととろけました。
料理の仕上げに欠かせないセレクトオリーブオイル
イタリアのシチリア島からのつながりをもつ『ぶらぼぅカフェ』の料理には、シチリア産のオリーブオイルが欠かせません。中でも、主に使用するのが、『バールパラディーソ』というエクストラヴァージンオイル。シチリアで手摘みされたオリーブを低音でじっくりと抽出したもので、オリーブ本来の青々しいフレッシュな香りが強く感じられます。店頭でも販売されており、岩手県のオリーブオイルソムリエとの縁があって出会ったのだそうですが、日本ではこちらと岩手県の2箇所しか手に入らない貴重なものです。また、シチリアのオリーブでできた珍しいジャムも販売されており、全国的にみてもこちらでしか購入できない希少品です。
オーナーインタビュー 神田京子さん
カフェ・ファーム・セミナールーム、どれも主軸は『癒やし』。
食べたり、休んだり、育つことなど、多方面での『癒やし』を提供できる
ヒーリングセンターを目指したい。
Q:カフェをはじめるきっかけを教えてください。
「もともとは、イベント企画やデザイン等を手がける会社を運営していたのですが、その事業のひとつでフリーペーパーをつくっていました。取材活動の中でオーガニック野菜や手づくり雑貨などの作家さんやアーティストさん達と出逢い、つながっていく機会が多くありました。その延長で一緒にマルシェやイベントをしたり、ワークショップを開いたりする事が増え、それならばいっその事、集まれる場所をつくってしまえばいいのかなと思い、カフェをオープンし、二階をセミナールームにしてワークショップやイベントで利用できるようにしました」
Q:石窯でつくるイタリアン料理というコンセプトに興味が湧きました。
「オープン当時は、ファームの野菜を中心にしたマクロビカフェでした。それも、私がキッチンに入り、地道につくっていたのですが、元々自由に活動できるようにと考えていたのにもかかわらず、全く身動きできない状態になってしまったため、シェフを探したんです。すると、かなりのジャストタイミングで知人からの紹介があり、関東で活躍していて大分に仕事で来られていた女性のイタリアンシェフに出会い、現在の料理やシチリアとの出会いにつながる元種ができました。そして、今の堀米シェフにより、レシピやメニューが数多く開発され、今のスタイルになっています」
Q:この場所を選んだのは?
「資材置き場として利用されていたので、地元では敬遠される不透明な場所でしたが、その後この土地が放置されていたのを知っていたので、この見晴らしの良さと自然が豊かなところを活かしたいと思っていました。近隣にはお茶農園もあるので、広大な敷地を農場として開拓すると、いろんな形を展開できそうだなぁと思い、『ぶらぼぅファーム』を創立しました」
Q:開拓には時間も労力もかかりますが、どのように進められたんですか?
「単に農場として運営するのではなく、実のある開拓にしたいと思ったので、NPO法人を立ち上げて社会福祉施設をつくり、作業所として軽度障害者が働ける仕事にしました。しかし、作物を育てられるようになるまでは時間も金銭的にもかかり、かなり大変でした。
一方で、この場所にカフェやファームを立ち上げてからは、奇跡的な出会いに恵まれました。数年前にこの広い土地をもとめて、アウトドアのフリースクールを行う若い青年が『キャンプをしたい』と尋ねてくれました。ファームの奥では『みんなの学校』として、プログラムをもたずに自発性を育てるキャンプを企画に場所を提供しています。近い将来は、子どもをのびのびと育てる教育ができるこども園も、この敷地につくる予定です」
Q:今後の展望をきかせてください。
「この場所を多方面から人を癒やすことができるヒーリングセンターのような場所にしたいと考えています。例えば、食べることは体の癒やしですし、疲れている人にはお昼寝も癒やしですし。のびのびとした子育てができる施設の横で大人がまどろめるような場所があるなんて、ステキだと思うんです。自分も仕事をしながら子育てしていますから、疲れを癒せる場所はうれしいものです。また、隣のお茶畑をはじめ、農業は後継者不足です。手間暇かけて丁寧に育てた農作物が、料理や商品と形を変えられるファクトリーカフェ、そして色々なセミナーやワークショップなどを開催できる全天候型の広いホール設立も夢見ています」
Q:お忙しい中、ありがとうございました。
エピローグ 取材を終えて
武井:オーナーの神田さん、初めてお会いしましたが、エネルギー溢れるチャーミングなお方! 自分の想いを一言ひとこと、丁寧に言葉にしているのが伝わってきます。 驚くような行動力をお持ちなのに、自然体で、いい意味で気負い過ぎていないところが印象的でした。 ひとり、ではなく、社会全体の循環を考え、周りとシェアしていく。 話を伺うにつれ、芯があるのに、柔軟性も兼ね揃えたお人柄にひきこまれていきます。 そんな彼女の考えが至る所にあらわれているカフェ。 口にするものへのこだわりはもちろん、空間への配慮など、みんなが気持ちよく過ごせるように、どんどん進化しているようです。 たとえば、子連れでも気兼ねなく、かつきちんとしたお料理がいただける場所を、と靴を脱いで上がる個室は増設されたそう。 自らの経験をふまえ、形にしていくこと、それを継続していくこと・・・そう簡単ではありません。
「私は運がいいのよ!」と朗らかに話すオーナーさん。 素敵な笑顔の向こうには、それだけではない熱いものが感じられます。 これからここは、どんな場所になっていくのだろう・・・ また何度も訪れたい、そんな気持ちにさせられる出会いとなりました。
アクセス 大分インターから車で5分
石窯キッチン&カフェぶらぼぅ
ぶらぼぅファーム
住所:大分県大分市庄の原2-1
電話:097-594-3239
営業時間:11:30~18:00
ランチタイム11:30~15:00
ディナー・イベントをご希望の方は別途相談
定休日:日・月(月曜不定休)
MAP
取材・編集スタッフ
モデル・レポート:武井千穂
レポート・編集:中本望美
撮影・制作:ヴォーク有限会社